マッスルアップ(別名ロシアンチニング)という種目をご存知でしょうか。
鉄棒を使って行う懸垂のトレーニングで、懸垂とディップスを組み合わせて一気に鉄棒の上まで体を持ち上げる動作をいいます。
「超人の懸垂」などと言われ、ハイレベルな種目ですが、自重系の懸垂トレーニングにしっかりと取り組んでいけば、いつかはたどり着くことができるそれほど難易度の高い種目ではありません。
「懸垂のやり方」の記事の中で紹介しているアンイーブンプルアップ(別名ロッキー懸垂)ができれば、十分に挑戦できます。【参考】自重系トレーニング懸垂のやり方【背中の鍛え方】
回数を求めればキリはありませんが、1回の難易度としては片手懸垂(ハーフ)よりも低いです。
そんなマッスルアップについての効果と取り組み方、ちょっとしたコツを紹介します。
因みにマッスルアップのギネス記録は26回で、ベラルーシのMaksim Trukhonovets氏が2018年に認定されています。
鍛えられる部位
マッスルアップは懸垂とディップスの動作を行うので、それぞれの種目で鍛えられる部位に効果がありますが、さらに懸垂からディップスに移行する際に負荷のかかる前腕にもかなりの効果があり、この前腕の強化がマッスルアップ習得のコツとも言えます。
特に効果がある部位について、図の黄色線で示しましたが、最終的には反動を使わずゆっくりと実施するので、全身を緊張させて行うことから腹筋から上の全ての部位に効果があると言っても過言ではありません。
マッスルアップのやり方
マッスルアップ(反動あり)
初めて行う人は、体の使い方を覚えるために、反動を使ったマッスルアップから取り組みましょう。
①手は順手で親指は握り込まず、肩幅に開いて鉄棒にぶら下がる。
②体を前後に揺らし、腰が前に出たタイミングで腹筋に力を入れて太ももから先を持ち上げると同時に、体をくの字にしながら鉄棒に対して弧を描くようなイメージで上半身を引き上げる。
③胸が鉄棒の位置まで上がったら、瞬間的に手を奥に握り直す。
④鉄棒の上に上半身を倒し込むようにして胸を乗せ、一気に肘を伸ばして胸を張る。
反動を使って行うので、コツをつかんでしまえばそれほど筋力は必要ありません。
マッスルアップ(反動なし)
①鉄棒に肩幅程度開いてぶら下がる。(親指は握り込まない)
②懸垂の要領で体を一気に引き上げる。
③胸が鉄棒を通過するのに合わせて瞬間的に手を奥に握り直す。
④手首を固定したまま手を下に降ろすように力を入れて肘を伸ばして胸を張る。(テーブルに手をついて立ち上がる、サッカーのスローインをするといった手の動きをイメージすると分かりやすいと思います。)
一気に上まで上がる要領を説明しましたが、最初は左から3番めの写真のように鉄棒の上に胸を一度乗せてからディップスをするというふうに区切って行い、徐々に流れでできるようにしていきます。
クローズド・マッスルアップ
①鉄棒に両手が触れ合うように近づけてぶら下がる。(親指は握り込まない)
②体を引き上げ、胸が鉄棒を過ぎるあたりで鉄棒の奥に手を握り直し、手首を固定する。
③背中を丸めるようにして体を前に倒しながら引き上げる。
④胸が鉄棒の真上まできたら肘を伸ばして胸を張る。
体を引き上げるときに鉄棒に寄り過ぎると、胸と手の間隔がなくなり窮屈になるので、鉄棒と胸の位置が水平になるまでは少し体を鉄棒から離すイメージを持つとやりやすいです。
スローマッスルアップ
マッスルアップ(反動なし)をさらにゆっくりと行います。
①3秒かけて鉄棒が胸の高さになるまで懸垂をする。
②3秒かけてディップスの姿勢になる。
③3秒かけて肘を伸ばして胸を張る。
懸垂からディップスのつなぎでかなり前腕の力が必要になりますが、トレーニング効果としては抜群です。
アレンジ
クローズド・マッスルアップとは逆に、手の幅を広げて行ったり、片方の手に体を預けてあえて偏りを与えて行ったりする方法があります。(根性上がりなどと言われ、マッスルアップより難易度は低くなります。)
根性上がりを例として紹介します。
①鉄棒に肩幅程度開いてぶら下がる。(親指は握り込まない)
②懸垂の要領で体を引き上げながら、頭を左に傾ける。
③胸が鉄棒を通過するのに合わせて瞬間的に右手を奥に握り直す。
④腕相撲の要領で右肩と右肘を鉄棒の上に持って行く。
⑤胸を鉄棒の上に位置し、左肘左肩も右腕と同様の姿勢をとる。
⑥手首を固定したまま肘を伸ばす。
利き腕でないとかなり困難なので、トレーニングとしてはバランスが悪くなってしまいますが、マッスルアップのコツを掴む助けにはなるかもしれません。
トレーニングの取り組み方
反動アリから始める
マッスルアップ(反動あり)から取り組みます。
コツをつかむまでは、1回1回の間の休憩を3分間以上とりましょう。連続で実施するとすぐに前腕が疲労してしまうので、初めは挑戦回数を重視します。
1回〜4回程度しか出来ない間は、神経系強化のトレーニングとなっているため、しっかりとしたインターバルが必要です。【参考】最も効果的な筋トレのインターバル(セット間の休憩時間)とは【何分?何秒?】を参考にしてください。
反動を使って行うので、難なく出来るようになったら筋力を効果的に鍛えることにならないため、すぐに次のステップに進みます。
マッスルアップ(反動なし)では、徐々に反動を小さくしていき、反動無しで1回を最初の目標にします。
完全に反動無しで10回以上出来るようになったらクローズド・マッスルアップへと進みましょう。
取り組みの中で、トレーニングの仕上げとして反動を使うことはありだと思います。
オールアウトを意識すれば筋肥大もセットでついてきます。体を降ろすネガティブ動作でエキセントリック収縮を意識してゆっくり行えば、さらに高いトレーニング効果が得られます。【参考】自重系トレーニングで筋肥大させる方法
ここまでの種目は瞬発的に体を動かす種目です。自重系トレーニングは、基本的にエキセントリック収縮を意識してゆっくり行う種目を中心としているので、月に2〜3回程度こうした瞬発系の種目を取り入れて行うことをお勧めします。
自重系トレーニングのさまざまな種目については【参考】自重系トレーニングの効果とおすすめの種目を参考にしてください。
最終ステップであるスローマッスルアップは、かなり難易度が跳ね上がりここまでくると出来る人は限られてきますが、挑戦する価値がある種目です。
ジャンプの力を利用する
マッスルアップ(反動あり)から取り組んでみたものの、全く出来ずに心が折れそうになってしまった人にお勧めの方法があります。
ジャンプする力を利用して体の使い方を覚える方法です。
胸の高さ程度の鉄棒に、足を地面につけてしゃがんだ状態でぶら下がり、立ち上がってジャンプするタイミングに合わせて体を一気に引き上げます。
ジャンプする力を徐々に弱くしていき、腕にかかる負荷を上げていけば、マッスルアップに必要な筋肉を鍛えることが出来ます。
次で説明する、鉄棒の握り方を意識して行えばより効果的なトレーニングになります。
成功のコツ
手首と前腕
マッスルアップは初めに説明したとおり、懸垂とディップスを組み合わせた種目ですが、ポイントはそのつなぎ部分です。
手首と前腕の使い方が重要になります。
写真のように胸が鉄棒の高さまで上がった瞬間に、鉄棒を奥に握り直して前腕の力で鉄棒の真上まで胸を持っていきます。
最初の姿勢で、鉄棒をできる限り奥で握り込むようにして行うとこのつなぎがスムーズにできます。
なかなかうまく行かない人はこのポイントを意識するといいと思います。どうしても手首が逆に折れて耐えられない人は、前腕を鍛えるしかありません。
神経系の強化
取り組み始めは、力の入れ方も分からず1回の壁が高いと思います。
マッスルアップは瞬間的な最大筋力が関係するため、神経系を強化する必要があります。
出来なくても続けて取り組むことで、運動単位の同員数が増加し同期していきます。働く筋繊維が増えてタイミングが合っていくということです。
つまり、諦めずに取り組み続けるということがとても重要になります。
「神経系の強化」については【参考】筋力トレーニングで神経系を強化する方法で更に詳しく解説しています。
まとめ
懸垂とディップスを組み合わせたマッスルアップは、「引く」と「押す」を同時に鍛えることができる魅力的な種目です。
しかも実際にあまり目にしたことがないように、出来るようになれば希少性が高くちょっとした自慢にもなります。
そのため難易度も高そうですが、自重系トレーニングで懸垂にしっかりと取り組んでいけばいつかは辿り着けます。
キャリステニクスを世間に広めた元囚人が書いた本「プリズナートレーニング」でも紹介されていますので、興味ある人は是非読んでみてください。
コメント