民主主義の危機と可能性について【22世紀の民主主義 成田悠輔】

読書

イェール大学助教授であり、経済学者であり起業家。独特の視点で辛口のコメントをする成田悠輔さんの民主主義に対する危機感と提案を紹介します。

世界の半分で当たり前のように営まれれきた民主主義の現状を知り、疑ってみて、新しい形を探ってみる。

すごく大きな視点ですが、世界について考えてみるのも面白いと思います。

読了後の学び

  • 民主主義の危機を実感
  • 民主主義との闘争の可能性
  • 民主主義からの逃走の可能性
  • 新しい民主主義の構築

民主主義の危機感

民主主義とは、主権が人民に存在し選挙に代表される多数決により国を運営していく政治思想です。

現在の日本における民主主義は、明治維新以降に輸入され戦後に定着したと考えるのが一般的であり、民主主義の対義としては、絶対君主制や独裁主義がこれにあたります。(江戸時代以前から日本独自の民主主義が存在していたとの考え方もあります。)

中国やロシアのような独裁国家では独裁者が暴走し人権が無視される様子を目の当たりにし、一方で民主国家では人権が平等に保障され物事を話し合いで決める様子から、独裁主義は悪で民主主義は善という印象をなんとなく持っていると思います。

でも、成田さんはまずここに警鐘を鳴らしています。「本当に民主主義は成功と言えるのか?」と。

二人三脚の片足・民主主義が、しかし、重症である。ネットを使って草の根グローバル民主主義の夢を実現するはずだった中東の多国民主化運動「アラブの春」は一瞬だけ火花を散らして挫折した。むしろネットが拡散する煽動やフェイクニュースや陰謀論が選挙を侵食。北南米や欧州でギャグのような暴言を連発するポピュリスト政治家が増殖し、芸人と政治家があいまいになった。

成田悠輔(2022年7月)『22世紀の民主主義』SBクリエイティブ

民意を吸い上げるための民主主義の核である選挙。国政選挙の投票率は右肩下がりの減少を続けており、50%を切る勢いです。【参考】総務省|国政選挙の投票率の推移について

二人に一人は民主主義に参加すらしていない状況で、参加している人もメディアの情報に操作されたり流されたり、一つ一つの政策に対する意見を持たないまま何となく人気や勢いで政党を決めたりしています。

結果、新型コロナ禍からの経済の立ち直りが遅れたり、憲法改正や安全保障などの重要事項についての議論がいつまでも進まなかったりと、民主主義は機能不全に陥っている節があります。

自由・平等・人権は大事だと言われれば当たり前過ぎて否定出来ないだけに、民主主義を疑う目を持っていませんでしたが、本当にこれでいいのかな、という危機感をまずは感じました。

民主主義との闘争

今ある民主主義をなんとか改善しようとする提案がされています。

なかでも「液体民主主義」の発想はありそうでなかった理想的な改善だと思います。

簡単に言うと政策ごとに投票するというシステムです。現状では各政党が経済政策、社会保障、教育、外交・安全保障などについて、政策目標を設定しています。【参考】各党の公約 政策別・政党別 参議院選挙2022

国民は政党を選ぶシステムのため、「自民党の外交・安全保障政策には賛成だけど、社会保障については賛成できないなー。」といった声を反映することが出来ません。

そこで、政策ごとに自分の持つ票の何%かを投票するという形にして、自分が実現してほしい政策に強く意見を反映できるようにします。

これにより、少数派の意見が通りやすくなるというメリットも考えられるようです。

ジェンダーの問題に強く関心がある人は、自らの票のすべてをそこに投じればいいですし、よく分からないという人は、意見を言う必要もありません。

国民の関心が強い政策が数値として明確になるため、「今その政策、議論してる場合か!」ということがなくなります。

是非とも実現してほしい政治システムです。

民主主義からの逃走

民主主義を諦め、民主主義という失敗装置から解き放たれた「成功者の成功者による成功者のための国家」を作り上げるという発想です。

どの国の主権も及ばない公海に、独自の政治体制を試す独立国家を作るという、なかなか過激な発想ですが、実は既にそうした企てがあることを紹介しています。

ただ、この逃走が可能なのは既に成功している資本家のみであり、我々のような一般人には縁がない上に、選民思想を助長する少し危険な取り組みのようにも感じます。

新しい民主主義の構築

今回、成田さんが提案したい一番の構想である「無意識データ民主主義」です。

私たちが普段無意識に表明している考えや価値観を、声、表情、リアクションなどのデータを収集して、アルゴリズムにより政策立案するという仕組みです。

選挙の結果もデータの一部に格下げされ、また大量のデータを集めることで、統計学的な力による民意の歪みが修正されます。

かしこまって政策について議論する必要もなく、普段の生活の中での純粋な民意をそのままデータとして吸い上げて政策につながる仕組みであり、政治家の重要性が低下し役割が変わります。

無数の民意データ源から意思決定を行うのはアルゴリズムである。このアルゴリズムのデザインは、人々の民意データに加え、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標データを組み合わせた目的関数を最適化するように作られる。意思決定のアルゴリズムは次の二段階からなる。

(1)まず民意データに基づいて、各政策領域・論点ごとに人々が何を大事だと思っているのか、どのような成果指標の組み合わせ・目的関数を最適化したいのかを発見する。「エビデンスに基づく目的発見」と言ってもいい。

(2)(1)で発見した目的関数・価値基準にしたがって最適な政策的意思決定を選ぶ。この段階はいわゆる「エビデンスに基づく政策立案」に近く、過去に様々な意思決定がどのような成果指標に繋がったのか、過去データをもとに効果検証することで実行される。

この二段燃焼サイクルが各政策論点ごとに動く。

成田悠輔(2022年7月)『22世紀の民主主義』SBクリエイティブ

無意識民主主義 = (1)エビデンスに基づく目的発見 + (2)エビデンスに基づく政策立案

という形で運営されいていきます。

「民主主義との闘争」で紹介した「液体民主主義」の発想をさらに改良し、選挙システムを介さずに民意データを収集し、エビデンスに基づいた政策につなげる仕組みです。

大量のデータを集められ、情報処理能力が高度に発展してきた現代社会だからこそ、実現できる大きな可能性を感じます。

まとめ

重症の民主主義再生に向けて、なかなか刺激的な提案が続きましたが、最後に次のような言葉で締められています。

民主主義の再生に向けた民主主義の沈没、それが無意識データ民主主義である。

成田悠輔(2022年7月)『22世紀の民主主義』SBクリエイティブ

この言葉に、成田さんの真意が詰め込まれているように思います。

現段階で考えられる最善案を提案しながらも、決してそれが正解だというわけではなく、むしろ再生のための一意見として、結果一度沈没してから民主主義の持つ強い情熱により民主主義が再生することに期待する。

ただの民主主義の否定ではなく、民主主義の持つ可能性に賭けた提案なんだなと感じました。

作って壊すことで成長してきた資本主義と二人三脚で歩んできた民主主義だからこそ、破壊と再生により一つ上の段階の民主主義に押し上げる期待を強く感じます。

小説ですが、一部作って壊して成長する資本主義について触れている【参考】時代を越えて対立する部族【シーソーモンスター 伊坂幸太郎】も面白い作品なので興味がある人は読んでみてください。

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