全体主義化していく世界への警鐘【1984年 ジョージ・オーウェル】

読書

反全体主義の思想を持つイギリスの著者ジョージ・オーウェルが、「動物農場」に続いて生み出した作品です。

第二次世界大戦後の1949年に刊行され、当時の社会主義化していく世界情勢を色濃く表現しています。

刊行から35年後の未来へ向けて、国民の自由が奪われ、常に監視され、全体主義化していくことに警鐘をならしたディストピアSF小説です。

あらすじ

1950年代、核戦争により世界は3つの国に分断される。

そのうちの1つの国、オセアニアはビッグブラザーと呼ばれる独裁者が支配する全体主義国家であり、徹底した監視のもと、思想と言動が制限されている。

役人である主人公は、歴史の改ざん作業中にある事実を知ったことで国に不信感を抱き、監視の目を逃れて日記をつけ始めるが・・・。

読み終えた私の学び

  • 言語を守らなければという思いを強くした。
  • 語学を自ら学ぶことの必要性について学んだ。

失われていく言葉

作中、ニュースピークという言語体系を生み出していく場面があります。

従来使われている英語の語彙を減らしていくことで、一つの言葉からは一つの発想しかできないようにして、反抗の芽を摘んでしまおうというものです。

言語が存在しなければ、思考は存在せず、当然行動も発生しないという考えです。

人間は言葉で物事を理解しているのであり、頭にぼんやりと浮かんだだけのイメージはそのままでは認識できません。

言葉に変換して初めて理解し、その理解をもとに行動へと繋がります。

この考え方は今は常識であり、言語と思考の切っても切れない強い繋がりを表しています。

因みにこれを逆にとり、ノート術やメモ術などの本では、思考を言語化し行動を促すことを推奨しています。苫米地英人著「思考ノート術」や、前田裕二著「メモの魔力」などが参考になります。

この言葉を減らしていくという行為、作品の中だけでなく現実にも起こっているとしたら恐ろしいと思いませんか。

でも考えてみると日本でも現在進行系で起きていることに気が付きます。意図しているかしていないかに関わらずです。

例えば学校の勉強で習う漢字は、漢字の全てでしょうか。

実は私達が教えてもらう漢字は、常用漢字といわれる漢字検定2級までの漢字だけです。

その上の漢字検定準1級と1級で新たに出題される約7000字については、多くの方は触れることなく生涯を終えていきます。

漢字一文字一文字にはそれ自体が持つ意味があり、それらが組み合わさった熟語も日本という土地や歴史、風土に繋がる意味を持っています。

その言葉をほとんどの人が知らないということは、熟語も合わせて何万ともいえる言葉が失われていっていることを意味します。

そこには、日本人が誇りを持てる美があり、日本という最古の歴史の持つ重みがあるはずですが、それが失われていっているとも言えます。

漢字や言葉を学ぶことは、思考を増やすことであるとともに、国を守ることにも繋がります。

私も恥ずかしながら、漢字検定準1級を勉強しながら思います。

語学を学ぶ

翻訳機能が進む中で、外国語を学ぶ必要はないとする主張が一部であります。

たとえ言葉が通じなくても、スマホを使えばある程度やり取りはできることは確かですし、その技術も日々進歩していることも事実です。

しかし本当にそうでしょうか。

もし悪意ある人間が、重要な人物の言葉を間違った意味に訳して伝えたらどうなるでしょう。

権力を持った人の思い通りに、世の中を操作できることにならないでしょうか。

そんなことは起こらないといいきれるでしょうか。

歴史上には数々の誤訳による出来事があります。

  • カーター大統領が「私がアメリカを発ったとき」と言ったことを、通訳が「私がアメリカを捨てた」と訳したこと。
  • オバマ大統領が日中関係のエスカレートを見過ごすことを「重大な誤りだ」と発言したことを「正しくない」と訳したこと。
  • ポツダム宣言を巡る一語の誤訳が原爆投下の原因となったこと。

これらは誤って訳してしまったことによるものとされています。

一方で、映画は直訳ではなく、それぞれの国の文化に馴染んだ意訳が頻繁に行われます。

アメリカンジョークなどは特にそうで、笑いの感覚も違うため直訳だと作品のイメージを伝えることができません。

意訳により全体のイメージをそのままに、言語が違う国で楽しむことができます。

誤訳は間違って起きてしまうことで仕方がない面もあり、意訳についてはそれ自体が悪いとは言いません。

ただ、それが悪い事のために意図して行われることがないとは言いきれません。

そのためには、やはり自分で学ぶしかないんだと思います。

子どもたちが大人になる頃にはおそらく翻訳機能はかなりのレベルに達しているとは思いますが、世界から対立がなくなり、悪意ある権力者がいなくなり、戦争がなくなる保証はありません。

世界から悪意がなくなることが理想ですが、情報リテラシーを向上させながら、と同時に自分の力で言葉を学んでいくことは今後も必要だと思います。

お勧めしたい人

  • SF小説好きな人
  • 世界情勢に興味がある人
  • SF小説好きな人

    当時からの近未来を描いているため、すでに現実味がある内容ですが、やはり世界観や展開はSF小説です。

    常に気が抜けない緊張感がありすごく読み応えがあります。

  • 世界情勢に興味がある人

    二極化していく現在の世界情勢において、社会主義、共産主義の危険性について如実に表しています。

    また、私達が価値観を共有している資本主義社会でも、気づかないところで全体主義が進んでいることもあるので、この本をきっかけに考えてみてほしいと思います。

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